小説「れんげ荘」のキョウコさんのリタイアプランをシミュレーションしてみた
小説「れんげ荘」のあらすじ(文庫本の裏表紙より)
月十万円で、心穏やかに楽しく暮らそう! ―――キョウコは、お愛想と夜更かしの日々から解放されるため、有名広告代理店を四十五歳で早期退職し、都内のふるい安アパート「れんげ荘」に引っ越した。そこには、六十歳すぎのおしゃれなクマガイさん、職業“旅人"という外国人好きのコナツさん・・・・・・と個性豊かな人々が暮らしていた。不便さと闘いながら、鳥の声や草の匂いを知り、丁寧に入れたお茶を飲む贅沢さを知る。ささやかな幸せを求める女性を描く長編小説。
- キョウコさんの資産や年金を推定する
- キョウコさんのライフプラン (推定)
- キョウコさんのプランの不安要素
- 寿命
- 2020年の平均寿命
- キョウコさんの余命
- 物価
- 医療・介護
- キョウコさんのプランの不安要素をまとめると
- いくつかの解決案をシミュレーションしてみる
- プラン1 - 月5万円のパートで5年間働く
- プラン2 - 月5万円のパートで5年間働く & 年金の受給を3年繰り下げる
- もしも、預金残高が 3,600万円だったら…
- プラン3 - 月10万円のパートで5年間働く & 年金の受給を3年繰り下げる & 毎月5万円を5年間積立しながら年2%で運用
- プラン3 で物価上昇率が 0.0% の場合
- プラン3 で物価上昇率が 0.5% の場合
- プラン3 で物価上昇率が 1.0% の場合
- ライフプラン シミュレーター
キョウコさんの資産や年金を推定する
「れんげ荘」のキョウコさんによると、月10万円で生活を続けた場合、80歳で預貯金が底をつくとのこと。
これは将来受給するであろう年金支給額も含んだ上での数字だと考えました。
年金を受給しても 80歳で預貯金が底をつくということは、キョウコさんが受給する年金は生活費である 10万円に満たない額ということになります。
なので、キョウコさんの年金受給額は少なく見積もって月7万円と想定してみました。(65歳から年金を受給するとして)
上記の数字で計算してみると、キョウコさんの預金残高は 3,000万円ということになります。(81歳で預金残高がマイナスに転じてしまう)
キョウコさんのライフプラン (推定)
年齢: 45歳
預金: 3,000万円
年金: 月7万円 (65歳~)
生活費: 月10万円
職業: 無職
キョウコさんのプランの不安要素
寿命
2020年の平均寿命
2020年(令和2年)の日本人の平均寿命は、男性が 81.64歳、女性が 87.74歳です。(2020年に生まれた赤ちゃんがあと何年生存できるかという平均年数)
また、前年と比較して男性は 0.22年、女性は 0.30年伸びました。
厚生労働省 2020年(令和2年) 簡易生命表
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life20/index.html
キョウコさんの余命
以下のページは、厚生労働省の第21回完全生命表(2012年公表)のデータから「ある年齢の人がある年齢まで生きる確率」を計算してくれるページです。
http://tknottet.sakura.ne.jp/pension/LivingProb.php?AGE=45&SEX=F&Calc=%8D%C4%8Cv%8EZ
キョウコさんのプランは 80歳で預金残高が底をつくとのこと。
しかし、上記ページによると、現在 45歳の女性が 80歳まで生きる確率は 80.3%もあります。
なので、キョウコさんのプランは破綻する可能性が高いと言えます。
ちなみに、現在 45歳の女性が…
80歳まで生存する確率: 80.3%
85歳まで生存する確率: 67.4%
90歳まで生存する確率: 47.0%
95歳まで生存する確率: 23.2%
100歳まで生存する確率: 6.5%
キョウコさんが 80歳になるまで 35年ありますが、その間に医療技術が進歩するなどして、さらに長生きする時代になっているのではないでしょうか。
そう考えると、キョウコさんのプランは大丈夫なのだろうか?と思います。
実際には生活保護もありますが、生活保護というものは、それに頼らなくても生活できるようなプランを立てた上で、それでも上手くいかなくなってしまった時に頼るべきものであって、最初から生活保護を想定したプランというのでは社会にとっても困りますし、そのような考え方をすべきではないと思います。
物価
物価の上昇、つまりインフレというやつで、日本銀行は消費者物価の上昇率(インフレ率)を年2%とする「物価安定の目標」を掲げています。
家賃というのはおそらく上がることはないと思います。
なので、家賃以外の生活費(月7万円)について、毎年物価が上がり続けるとキョウコさんの預金残高がどうなるかというシミュレーションです。
(物価は上昇するものの、銀行の金利はゼロのままで、年金受給額も変わらないという想定。あるいは、銀行の金利や年金受給額が上がったとしても、それを上回る物価上昇と考えてもよい)
物価上昇率が上がると、預金残高がゼロになる年齢がどれくらい変わるか?
物価上昇率 0.0% --> 81歳
物価上昇率 0.5% --> 75歳
物価上昇率 0.8% --> 73歳
物価上昇率 1.0% --> 72歳
物価上昇率 1.2% --> 71歳
物価上昇率 1.5% --> 69歳
例えば、物価が毎年 0.5% のペースで上昇すると、20年後の家賃以外の生活費は月7万円から月7.7万円になります。
20年間で 7,000円のコスト増かと思うかもしれませんが、物価が毎年 0.5% のペースで上がり続けると、キョウコさんの場合、81歳までは何とかなるだろうと考えていた預金残高が、75歳でゼロになってしまいます。
このように想定すると、とても恐ろしい結果となります。
医療・介護
キョウコさんのプランは死ぬまで健康であるというプランであり、医療と介護が必要になった場合に不安を感じます。
老後の医療と介護にどれくらいの費用が掛かるのかというと、以下のサイトでは自己負担分だけで一人 800万円だそうです。
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO22682460V21C17A0000000/
だいたいどこのサイトを見ても老後の医療と介護の平均的な自己負担額は 700~800万円と書かれていました。
もちろん、この数字はあくまでも統計上の数字なので、ほぼゼロの人もいるでしょうし、逆に、もっと多くの出費が発生した人もいます。
万が一、大きな病気や介護が必要になった時に、頼りになる預貯金が少ないと大きな不安を抱えながら余生を送ることになりますし、場合によっては、十分な医療・介護が受けられない可能性もあるのではないでしょうか。
キョウコさんのプランの不安要素をまとめると
- 寿命
80歳で預金残高がゼロになる想定だが、その時点で生存している可能性が 80.3% もあること。
- 物価
物価が上昇すると、想定よりも早く資金が枯渇してしまうこと。
- 医療・介護
大きな病気や介護が必要になってしまうと、想定よりも早く資金が枯渇してしまうこと。
いくつかの解決案をシミュレーションしてみる
生活費は削らずに、それ以外でできる事をシミュレーションしてみました。(もし、生活費を削れるのであれば、その分を娯楽やレジャーに使うということにします)
なお、物価上昇率については、家賃以外の生活である月7万円に対してのみ上昇していくという想定で計算しました。
プラン1 - 月5万円のパートで5年間働く
月5万円のパートで5年間働いたらどうなるかをシミュレーションしてみました。
│ キョウコさんプラン │ プラン1
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年齢 │ 45歳
預金 │ 3,000万円
生活費 │ 月10万円
年金 │ 月7万円 (65歳~)
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職業 │ 無職 │ パート(月5万円を5年間)
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物価上昇率│ 0.0% だと 81歳 │ 90歳
と預金残高│ 0.5% だと 75歳 │ 81歳
がゼロにな│ 1.0% だと 72歳 │ 77歳
る年齢 │
すると、預金残高がゼロになる年齢を上記のように大きく引き延ばすことができます。
月に5万円程度であれば気軽に働けますし、嫌な職場であれば辞めて新たな職場を探せばよいと思います。
アーリーリタイアからセミリタイアになりますが、老後の安心感は増すことになるはずです。
ただし、上記の計算は、ずっと健康であれば…という想定です。
プラン2 - 月5万円のパートで5年間働く & 年金の受給を3年繰り下げる
プラン1「月5万円のパートで5年間働く」に、「年金の受給を3年繰り下げる」という変更を加えるのがこのプランです。
年金の受給開始年齢を1か月遅らせるごとに受給額を 0.7% アップさせることができます。(最大75歳まで繰り下げられる)
そこで、年金受給開始年齢を 65歳から 68歳に繰り下げ、受給額を 1.252倍に増額します。(0.7% × 12か月 × 3年 = 25.2%増額)
キョウコさんの場合は 7万円から 1.252倍なので 8.76万円となります。(8.7万円で計算しました)
すると、以下のような結果になりました。
│ キョウコさんプラン │ プラン1 │ プラン2
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年齢 │ 45歳 45歳
預金 │ 3,000万円 3,000万円
生活費 │ 月10万円 月10万円
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年金 │ 月7万円 (65歳~) │ 月8.7万円 (68歳~)
----------┼--------------------┬---------------┴--------------------
職業 │ 無職 │ パート(月5万円を5年間)
----------┼--------------------┼---------------┬--------------------
物価上昇率│ 0.0% だと 81歳 │ 90歳 │ 100歳(25.2万円残る)
と預金残高│ 0.5% だと 75歳 │ 81歳 │ 82歳
がゼロにな│ 1.0% だと 72歳 │ 77歳 │ 75歳
る年齢 │
上記にてプラン1とプラン2を比べてみると、物価上昇率が 0.0% の場合、預金残高がゼロになる年齢を 90歳から 100歳まで延長することができました。
しかし、物価上昇率が 0.5% の場合は、それほど変わらなし、1.0% の場合は逆に 2歳ほど早まってしまいました。
これは、年金受給額が増額されたものの、それを生かすだけの預金残高がないからです。
では、例えば預金残高が 3,000万円ではなく、3,600万円だったらどうなるのでしょうか?
もしも、預金残高が 3,600万円だったら…
● 預金残高が 3,600万円だったらというシミュレーション
│ キョウコさんプラン │ プラン1 │ プラン2
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年齢 │ 45歳 45歳
預金 │ 3,600万円 3,600万円
生活費 │ 月10万円 月10万円
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年金 │ 月7万円 (65歳~) │ 月8.7万円 (68歳~)
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職業 │ 無職 │ パート(月5万円を5年間)
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物価上昇率│ 0.0% だと 98歳 │ 100歳(204万円残る) │ 100歳(625万円残る)
と預金残高│ 0.5% だと 87歳 │ 92歳 │ 98歳
がゼロにな│ 1.0% だと 81歳 │ 85歳 │ 87歳
る年齢 │
上記のように預金残高が 3,600万円あったとすると、物価上昇率が 0.5% の場合は、預金残高がゼロになる年齢を 92歳から 98歳に遅らせることができました。
1.0% の場合は、85歳から 87歳に遅らせるだけに留まりました。
年金を繰り下げ受給すると、年金の総受取額で損をするという考え方もありますが、損をするかどうかは死ぬまでわかりません。(平均寿命から推定することは可能ですけどね)
しかし、繰り下げを選択した場合は、増額されただけ後の生活が楽になるので、受給開始後に必要な蓄えを少なく見積もることができます。(その代わり、受給開始前の出費は多くなるわけですけどね)
例えば、プラン1と2で物価上昇率が 0.0% の場合、100歳の時点で 421万円の差があります。
100歳まで生きる確率は数パーセントです。なので、プラン2であれば、400万円くらいを娯楽で消費した方が、たとえ年金の総受取額で損をしたとしても人生が豊かになると思いませんか?
プラン1で、400万円を娯楽で消費してしまうのは、何かあった時の不安が残るような気がします。
ちなみに、預金残高が 3,000万円でも 3,600万円でも、ずっと健康であれば…という想定です。
年金の受給開始年齢は預金残高に応じて考えた方が良いということですが、可能な限り引き下げた方が生活が豊かになるような気がします。
プラン3 - 月10万円のパートで5年間働く & 年金の受給を3年繰り下げる & 毎月5万円を5年間積立しながら年2%で運用
プラン2は、「月5万円のパートで5年間働く & 年金の受給を3年繰り下げる」という内容でしたが、これを変更し、月5万円のパートを月10万円にして、その半分の月5万円を5年間積立しながら年2%で運用するというプランです。
●投資の想定
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・毎月5万円を5年間積み立てる (月5万円 × 5年間 = 300万円)
・年利回り 2% で運用
・分配金・配当金は元本に組み入れる(複利計算)
・積立完了後は売却せずにそのまま運用
│ キョウコさんプラン │ プラン1 │ プラン2 │ プラン3
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年齢 │ 45歳 45歳
預金 │ 3,000万円 3,000万円
生活費 │ 月10万円 月10万円
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年金 │ 月7万円 (65歳~) │ 月8.7万円 (68歳~)
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職業 │ 無職 │ パート(月5万円を5年間) │ パート(月10万円を5年間)
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投資 │ なし なし │ 毎月5万円を5年間積立しながら年2%で運用
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物価上昇率│ 0.0% だと 81歳 │ 90歳 │ 100歳(25.2万円残る)│ 100歳 (900万円残る)
と預金残高│ 0.5% だと 75歳 │ 81歳 │ 82歳 │ 100歳 (48万円残る)
がゼロにな│ 1.0% だと 72歳 │ 77歳 │ 75歳 │ 87歳
る年齢 │
プラン3 で物価上昇率が 0.0% の場合
100歳の時点で 900万円残るという計算結果ですが、その内訳は以下のようになりました。
銀行預金: 25.2 万円
積立投資: 874.4 万円
---------------------
合計 899.6 万円
銀行の残高が 25万円に対して、積立投資が 874万円もありますが、これは投資した元本に分配金・配当金などを加えた数字であり、現金ではありません。
つまり、874万円で買った投資商品を持っているというだけで、相場によっては半分くらいになっている可能性もあります。(その逆でもっと高くなっている可能性もあるけど)
ただし、投資した元本は 300万円なので、874万円が半分になってしまったとしても、損失はありません。
100歳時点で生存している可能性が数パーセントということを考えると、元気なうちに売却して現金化しておいた方がよいかもしれません。
プラン3 で物価上昇率が 0.5% の場合
100歳の時点で 48万円残るという計算結果ですが、その内訳は以下のようになりました。
銀行預金: 0 万円
積立投資: 48.8 万円
---------------------
合計 48.8 万円
年金だけでは生活費が足りず、銀行預金を取り崩しながらの生活ですが、その銀行預金が 82歳で底をつきました。なので、以降は積立投資を売却しながら生活費に充てるという結果となりました。
生活費を投資で運用するような方法は危険だと思います。
ちなみに、82歳の時点での積立投資の残高は想定どうりの運用だとして 604万円になっています。(つまり、購入した投資商品を購入時の価格で売れたとして、ということ)
プラン3 で物価上昇率が 1.0% の場合
87歳の時点で全ての資産が無くなるという結果になりました。
銀行預金の残高がゼロになるのが 75歳の時で、その時点で投資商品が 516万円ありました。
とはいえ、516万円というのは現金ではなく投資した元本と分配金・配当金の合計であり、その価格で現金化できるかどうかはわかりません。
なので、これも危険な運用方法ですね。
投資というのは、余剰資金で運用すべきかと思いました。
ライフプラン シミュレーター
このページの試算は以下のツールで計算しました。
ライフプラン シミュレーター
https://lifeplan.nanashisan.net/
ライフプラン シミュレーター (プラン2 のシミュレーション結果)
https://lifeplan.nanashisan.net/index.php?rid=hpyi
金額や年齢などの各種数値や項目を変えながら様々な想定をシミュレーションすることができます。