映画「湿地」を見て
更新日: 2022-04-18 02:07:14
映画「湿地」
2018年 1時間34分
原題「Mýrin」
アイスランド語で自動翻訳すると「沼」
アイスランドの首都レイキャビクを舞台にした殺人事件。
アパートの一室で男の死体が発見され、殺人事件として捜査が開始される。事件を担当するのはエーレンデュル刑事。彼は事件現場から一枚の古い写真を見つけ、それを手掛かりに殺された男の過去を調べていく。やがて、30年前のある出来事が明らかになり、そのことが事件と関係していることを突き止める…。
- 感想
- アイスランド
- 世代を超えて受け継がれる負の遺産
- 湿地というタイトル
- 声楽と曇りばかりの空
- 羊の頭を食べるシーン
- 食べ物のシーンが美味しそうに見えない
- エーレンデュル刑事は祈っていたのか?
- タバコを吸い過ぎのエーレンデュル刑事
- ウイドルの脳をどうするつもりだったのか?
- 無関心な人達が多いような気がした
- ウイドルとグレータルの遺体について
- ホルベルクはどんだけ女好きなんだよ!
- エットリデがルーナルを殺そうとした理由がよくわからなかった
- レイプなのか?不倫なのか?がわかりづらかった
- オルンの母親とは不倫だったと判断した理由
- コルブルンはレイプだったと判断した理由
- グレータルが殺された理由が弱い?
- 白い制服を着た警察官は誰の葬儀に参列しているのか?
- 事件現場に残されたオルンの血痕と指紋
- オルンが自殺した直後に、なぜ埋めようとしたのか?
- オルンは、レイプによって生まれてきたと考えたまま死んでいったのか?
- 実の父親であるホルベルクを殺した理由
- 自殺したオルンと救いの無い結末
感想
聞き馴染みのない北欧の人物名が多く、誰が誰のことを話しているのか判りづらい。
犯罪ミステリーであるが、大きな衝撃はなかった。時間を掛けてジワジワとパズルを解いていく感じ。
家系を辿っていくところや、複雑な人間関係で構成されている点など、北欧版の横溝正史といってもいいかもしれない。
身勝手な大人たちによって引き起こされた悲劇。オルンが犯人だったけど、気持ちとしてはオルンが被害者だった。
アイスランド
日本と同じ島国で、面積は北海道よりやや大きいくらい。
2020年での総人口は 36万人。(国というよりも町といったレベルですね)
首都レイキャビクの気温は年間を通じて 0度~10度前後。
世代を超えて受け継がれる負の遺産
遺伝子研究会社がテレビのインタビューを受けているシーン(開始13分)で「遺伝病というものは、世代を超えて受け継がれる負の遺産であり社会問題です」と答えているが「世代を超えて受け継がれる負の遺産」というのがこの事件の根幹でありテーマでもある。
負の遺産とは、直接的には遺伝性の脳腫瘍を指しているのだろうけど、それだけではなくて、親から子へ引き継がれるものはいろいろある。
例えば、レイプや不倫によって生まれた子供が真実を知ってしまった時に感じるであろう悲しみや苦しみは負の遺産であろう。
他にも、生活環境や教育、性格、虐待、貧困、子供との接し方などあらゆることが親から子へ引き継がれるというか影響されるといってもいい。
親の育て方で子供の人生は変わってくるだろうし、その子供に育てられる孫の人生も変わってくる。
親の責任はとても重い。
湿地というタイトル
原題である「Mýrin」をアイスランド語で自動翻訳すると「沼」と表示されたけど「湿地」と解釈してもいいだろう。
作品内で、どこまでも続く広大な湿地帯を空撮したシーンがあったけど「どこまでも続く」というのは「世代を超えて」ということを表現しており「湿地」というのは「負の遺産」を表現しているのだろう。
声楽と曇りばかりの空
作品内で流れる音楽は最初から最後までずっと声楽のみであり、ゆっくりとした時間と重い感じを演出している。
映像については青空のシーンが一切なくて、最初から最後までずっと曇り空ばかり。「どんよりとした冬」といった感じで、ほとんどのシーンが寒色系の色になっている。
それは「世代を超えて受け継がれる負の遺産」という重くて暗いテーマを表現する為だろう。
羊の頭を食べるシーン
エーレンデュル刑事が煮込んだ羊の頭を食べていたが、色は灰色で肉という感じではなくて、正直あまり美味しそうには見えなかった。
目玉?をペロリと食べちゃうし。
調べてみると、彼が食べていた羊の頭というのは「スヴィーズ」「スヴィズ」というアイスランド人の伝統料理とのこと。
厳しい環境のアイスランドでは、貴重な食材を無駄なく食べるのだそうです。なるほど。
しかし、あれですね。トレーの端にちょこっとだけポテトサラダのようなものが確認できたけど、ご飯とかパンといった主食がなくて、羊の頭だけで食べるんですね。
あまりお腹が空いてなかったのかな?
食べ物のシーンが美味しそうに見えない
元警察官のルーナルが、蕎麦のようなパッサパサの麺を、味も付けずに麺だけで食べていたように見えたけど、あれはいったい何なのだ?
しかも、サラダとかは一切なくて、麺だけ。どんな味なのか気になる。
エーレンデュル刑事の娘エヴァが作ったスープについては、エーレンデュルが何度も味見をしていたので、きっと美味しかったのだろう。
しかし、肉やじゃがいも?をほとんど原型のまま鍋に放り込んだって感じで豪快すぎる!
また、スープだけで食事していたけど、パンとか主食になるようなものは食べないのだろうか?
唯一美味しそうだったのが、後輩のシグルデュル刑事が車内で食べていたドーナツとコーヒー。
それと、解剖医の人が食べてたファストフードかチキンのような食べ物と、食堂でエーレンデュル刑事が食べていた肉とスープも美味しそうだった。
エーレンデュル刑事は祈っていたのか?
エーレンデュル刑事は、羊の頭を食べながら聖書のような分厚い本を開いて「祈りの言葉」を呟いていたが、これの意味がよくわからなかった。
素行不良の娘エヴァについて神の助けを乞うよう祈っていたのか?
それとも、ウイドルの墓標に刻まれていた祈りの言葉について調べていたのだろうか?
タバコを吸い過ぎのエーレンデュル刑事
あんなにヘビースモーカーの人って、なかなかいない。
常にタバコを吸っているのは、素行不良?の娘をどうしてよいかわからないというストレスからのものだろうか?
また、自分の健康に無関心のようだが、それは何かを表現するためにわざとそのような設定になっているのだろうか?
ウイドルの脳をどうするつもりだったのか?
エーレンデュル刑事は、ホルマリン漬けのウイドルの脳を自宅に持ち帰った。
その目的は脳に腫瘍があるかを確かめる為のはずだが、そうすることはせずに自宅に保管したままだった。それはなぜなのか?この点がわからなかった。
無関心な人達が多いような気がした
作品内で無関心な人達が多いような気がした。
例えば、殺人現場の近所に住んでいるパイロット?の男性は、被害者のホルベルクと顔見知りのはずなのに、知らん顔で無関心のようだった。
他にも、元警察官のルーナルは事件のことなど興味の無さそうな顔だったし、主人公のエーレンデュル刑事にしても、娘の住所は知らないし、妊娠中のエヴァがタバコを吸っていても気にも留めず、無関心な一面があるように見えた。
これは「他人に無関心で自分勝手な行動をしたことが事件に繋がった」ということを暗示しているのかな?なんて思ったが、考えすぎかもしれない。
ウイドルとグレータルの遺体について
墓に埋葬されていたウイドルは脳が無くなっていたわけだけど、そもそも死後30年以上も経過しているのだから、骨以外は無くて当然では?と思った。
検視官は「脳が無くなっていた」と発言してたけど、そうではなくて「頭蓋骨が切断されていたので、もしかしたら脳を摘出してどこかに保存されているかもしれない」と答えるべきだったのでは?
床下に隠されていたグレータルの遺体についても、死後30年以上も経過しているのにまだ腐敗臭がするの?と思った。
ホルベルクはどんだけ女好きなんだよ!
息子であるオルンが本当の父親であるホルベルクの部屋を訪ねた時、ホルベルクはパソコンで女の裸を黙々と見ていたし、仕事で乗っているトラックの運転席はエロ本だらけだった。
既に70歳近くのはずなのに、どんだけ女好きなんだよ!
エットリデがルーナルを殺そうとした理由がよくわからなかった
ホルベルクにレイプされたコルブルンは告訴をしようとしました。しかし、当時警察官だったルーナルがそれを諦めさせます。
ルーナルはその際「コルブルンは米軍相手に売春をしていた」というエットリデとグレータルの証言があるとコルブルンに告げました。
この証言内容は嘘なわけですが、それだけでなく、証言をしたということ自体も嘘だったのだろう。
つまり、証言の件は全て、告訴を諦めさせるためのルーナルの作り話です。
なので、そのような証言の話をエットリデは知らなかった。(刑務所での面会シーンで、証言のことなど知らないとエットリデは答えていたが、それは事実だと感じた)
エットリデがルーナルを殺そうとした理由は、自分の名前を勝手に使われ腹を立てたということだろうか?
しかし、それくらいのことで人を殺すだろうか?それとも、エットリデはとても凶暴だったので、そういう人物だったってことだろうか?
レイプなのか?不倫なのか?がわかりづらかった
殺されたホルベルクの過去を調べてみると、二人の女性と関係していたことが明らかになった。(時期が重なるのかは不明だが)
一人はオルンの母親で、もう一人はウイドルの母であるコルブルン。
この二人について、レイプなのか不倫なのかがわかりづらかったが、オルンの母親については不倫であり、コルブルンについてはレイプだったと結論した。
オルンの母親とは不倫だったと判断した理由
オルンの母親は「ホルベルクに犯された」と語っていたが、その直後に「これがレイプか?」とエーレンデュル刑事から情事を撮影した写真を見せられた。
それに対してオルンの母親は反論しなかったし「夫が仕事で留守が多くて寂しかった」というようなことを発言しているので、レイプではなく不倫だと判断。
コルブルンはレイプだったと判断した理由
コルブルンは告訴をしようとしていたし、元警察官のルーナルが証拠品である血の付いた下着を隠したとあるので、これは不倫ではなくレイプだと判断。
グレータルが殺された理由が弱い?
床下から遺体となって発見されたグレータルは、ホルベルクとエットリデによって殺され遺棄されたものだった。
その理由についてエーレンデュル刑事は「元警察官ルーナルとの連絡役だったグレータルが増長したために殺された」と語った。
しかし、仲間割れとはいえ殺すほどのことなのか?
でもまあ、刑務所に収監されていたエットリデはひどく暴力的だったので、その場の勢いで殺したのかもしれない、と解釈した。
白い制服を着た警察官は誰の葬儀に参列しているのか?
冒頭とラストの両方で、白い制服を着た警察官が整列して歌を歌っているシーンがあるが、これはいったい誰の葬式なのか?
警察官が制服で葬儀に出席するということは、殉職した警察官や公人だと思われるが、そうだとすると該当する人物がいない。
ちなみに、最後の葬式のシーンはエーレンデュル刑事も制服で参列していた。
冒頭のシーンの方では、台に寝かされた女の子の遺体に死に装束を着せてあげていたが、これは脳腫瘍で亡くなったオルンの娘コーラでしょう。(頬のほくろが一致するので、たぶんコーラ)
しかし、コーラの葬儀シーンは別にもあり、その際に警察官らしき人達は確認できなかった。なので、白い制服を着た警察官が参列しているのはコーラの葬儀ではないような気がする。
それとも、ウイドルの葬式?でも、ウイドルではないはずだ。なぜなら、脳を摘出した傷跡が無かったのでウイドルではない。
白い制服を着た警察官が参列しているのは、いったい誰の葬式だったのか?この点がわからなかった。
が、この点については、おそらく、悲しみを表現する為に物語とは関係なく差し込んだだけの映像と解釈した。
事件現場に残されたオルンの血痕と指紋
ホルベルク殺害現場のドアのガラスには、ホルベルクの息子であり犯人であるオルンの血痕が残されていた。(その血痕は、殺害事件以前の別の日にオルンが室内に侵入した時のものだけどね)
また、殺害時にオルンは素手であり、凶器である灰皿にオルンの指紋が残されているはず。
それなのに、それらの証拠について鑑識からは何の連絡もないとのことで、それ以降に触れられることは無かった。それが不思議。
オルンが自殺した直後に、なぜ埋めようとしたのか?
妹であるウイドルの遺体(遺骨)を墓穴に戻してから、後を追うように自殺してしまったオルン――。
その直後に、エーレンデュル刑事はスコップを使って墓穴を埋め戻そうとしていたが、この点がわからなかった。
画面が暗くてよく見えなかったが、自殺したオルンの下半身は墓穴の中に入っているが、上半身は墓穴の上で仰向けになって倒れていた。
土は墓穴に向けて放ってように見えたので、オルンを埋めるためではないように思えた。
すると、埋めた理由は、ウイドルの棺に入れた「脳が納められたビン」を隠すためだったのか??それとも、ウイドルと脳を一緒に埋葬してあげようとしたのか??
しかし、勝手にそんなことをしてもいいのか??この点がわからなかった。
オルンは、レイプによって生まれてきたと考えたまま死んでいったのか?
オルンは、母がホルベルクと不倫した結果生まれた。
しかしオルンは、不倫ではなくレイプだったと考えているようだ。なぜかというと、母に対して「レイプされたのか?」と聞いていたので。
また、ホルベルクに詰め寄った際に「レイプではなく、同意があった」と聞かされたが、その言葉を信じなかったと思いました。
なぜなら、もしも不倫であると信じたのであれば、殺意よりも真実を知りたいという気持ちになると思うし、母に対しても怒りや憎しみを抱かないとおかしいので。
オルンが母親に対して怒りや憎しみを感じているようには見えなかった。
なので、オルンは自身がレイプによって生まれてきたと信じたまま死んでいったのだと思う。
実の父親であるホルベルクを殺した理由
オルンの娘コーラは遺伝性の脳腫瘍で亡くなってしまったわけだけど、その病気はホルベルクから受け継がれたもの。しかも、オルンはそれがレイプによるものだと考えている。
コーラを失った悲しみが怒りや憎しみに変換され、ホルベルクに向けられたのだと思う。つまり、コーラを殺したのはお前だ!という気持ちで殺してしまった、ということ。
他にも、母がレイプされたと考えているので、それに対する憎しみや怒りといった感情もあるのかも知れないが、それが殺害の動機かと問われるとちょっと違うかな、と思う。
自殺したオルンと救いの無い結末
オルンが自殺した理由は、愛娘コーラを脳腫瘍で亡くしてしまった悲しみから。
それに加えて、本当の父親であるホルベルクを殺してしまったこともあるかもしれない。
アイスランドという小さな島国で逃げ切れるはずもないだろうから、絶望してしまったというのもあるだろう。
本当の父親であるホルベルクについては、怒りだけでなく、悲しみも感じていたかもしれない。
他にも、自分がレイプ(※1)によって生まれてきたと思っていることや、愛娘と同じ脳腫瘍で亡くなっていた腹違いの妹ウイドルの存在を知ってしまったなど(※2)、知りたくもない事実を知ってしまったということもあるだろう。
※1 本当はレイプではなく不倫だが、先に書いたように、オルンは母がレイプされたと考えていると思う。
※2 オルンはウイドルについても調べていたようだ。しかし、ウイドルがレイプによって生まれてきたことは知らなかったかもしれない。(レイプだと知っていたとすれば、どうやって調べたのか?コルブルンの姉エーリンに聞いたのか?)。いずれにしても、ホルベルクという男を見て、ウイドルは望まれて生まれてきた子ではないと考えたのだろう。つまり、ウイドルの父はホルベルクであるが、彼の被害者でもある、とオルンは考えているのだろう。
自殺をしたことは、負の連鎖である遺伝性の脳腫瘍を断ち切ることにもなったわけですが、命を絶つことによってそれが成されたというところが悲しい。
知りたくもない事実や負の感情を一人で背負うことになってしまったオルンは、妹であるウイドルと共に眠りにつくことを選んだのだろう。
身勝手な大人達がしたことの後始末を子供が背負わされるという構図で救いがない。
オルンは殺人犯なんだけど殺人犯って気がしない。私の気持ち的には、オルンは被害者だと思ってしまう。
最後。オルンの目って、ジョン・マルコビッチに似ていたように思う。それと笑顔のシーンが一度も無かったような…。