湊かなえ 短編集「サファイア」より「ムーンストーン」を読んで
更新日: 2022-01-13 11:18:05
湊かなえさんの短編集「サファイア」より「ムーンストーン」を読みました。
妻への暴力
夫は県会議員選挙で落選してしまったが、それは彼の人生で初めての挫折だったのかもしれない。それゆえに彼も相当苦しんだはずだ。
しかし残念なのは、挫折から立ち直ることができず、むしゃくしゃした気持ちを妻への暴力で解消しようとしたこと。
夫を殺害してしまった妻
暴力を受けても助けを求めなかった
暴力を受けても助けを求めず耐えようとするパターンって多いというイメージがある。それは、家庭内のネガティブなものを他人に知られたくないとか、もしかしたら何とかなるかもしれないという思考に陥ってしまうからではないか。
物語の彼女も「また元の生活に戻れるかも…」と自分に言い聞かせてしまった…。
殺してしまったわけ
しかし、本心では暴力を振るうような夫を愛する事はできなくなっており、それに加えて娘にも手を上げたので殺害してしまったのかな、と思いました。
語り手の視点が変わった事に気付かせない仕掛け
物語は3つの場面に分かれており、最初(事件前)は高坂小百合、真ん中(中学時代)は堀端久美、最後(事件後)は再び高坂小百合の目線で描かれている。
中学時代の場面に切り替わると、語り手の視点が高坂小百合から堀端久美に切り替わっているのだが、その事は最後の場面を読むまで気付かせないように意図して書かれている。
つまり、中学時代に優等生だった高坂小百合が弁護士になり、虐められていた堀端久美が殺人犯になったと勘違いさせる仕掛けになっている。(実際は逆)
そのような仕掛けになっている為、最後の場面を読み始めた時「どっちがどっちなんだ?」と頭が少し混乱してしまった。
人生、どうなるかわからない
中学時代は優等生で、市議会議員の妻になった高坂小百合は殺人犯になってしまった。一方、中学時代に虐められていた堀端久美は、テレビでも有名な弁護士になった。
中学時代は、いじめから救う側と救われる側の関係だったが、事件後では逆転した関係になっているというわけですね。
教訓
教訓は、誰に対しても親切にしておけってことでしょうか。(見返りを期待する親切というのは、やらしいけど)
そして、人に対して親切にするには、上から目線になってはいけない。上から目線になれば、相手の視点で物事を考える事ができなくなってしまうからね。
それにさ、どんなに自分の人生が上手くいっていたとしても、この物語のようにいつ転落するかわからない。
転落してしまったら、上から目線でいた時の自分を恥ずかしく思うはずだ。私はそんな風に思いたくないから常に謙虚でいたいな。