湊かなえ 短編集 サファイア より「ダイヤモンド」を読んで
更新日: 2022-01-10 10:22:36
結婚に高い理想を持つ主人公の男。しかし、おどおどして女性と会話することさえ慣れていない。男はお見合いパーティーに参加して美和という30代前半の女と出会えたものの、彼女に騙されて金を貢がされてしまう。そしてちょうどその頃、男が助けてあげた雀が人間に変身して恩返しにやってくる...というお話。
この短編を読み始めた時、この男は20代くらいかなと想像していたが、50代ということが明かされて驚いた。騙されたり美和のことを信じ続けてしまったのは、50代という年齢に焦りを感じていたからでしょうか?
それだけ結婚にこだわるのであれば、若い時から人並みの経験を積んでおくべきだったし、それができなかったのであれば、もっと慎重に事を進めるべきでしたね。
- 雀の女の子がお茶目で無邪気で、とにかくかわいい。
- 雀の女の子は男の妄想だったのか?
- 雀の女の子が男の妄想であると思われる点
- 男と雀の行動を確認してみると、男と雀が同一人物であったとしてもおかしくない
- 月曜日
- 火曜日
- 水曜日
- 木曜日
- 金曜日
- 土曜日
- 日曜日 (おそらく土曜日から日曜日に切り替わった直後であろう)
- 月曜日
- 最後はやっぱり悲しい―――
- 疑問に感じたこと
- 男はなぜ一週間の有給休暇を取得したのか?
- タイヤに細工をしたのは、男??
- ダイヤモンドの指輪はどこにあり、誰がどうやって取り返したのか?
- 美和と鈴木の会話の中で、気になったセリフの意味?
- お見合いパーティーや婚約も男の妄想なのか?
- おそらく...
- でも、何だかスッキリしないしモヤモヤが残るなあ。
雀の女の子がお茶目で無邪気で、とにかくかわいい。
雀の女の子は、恩返しの為に男の部屋を訪ねてくるわけですが、見方を変えれば 飼い主に従順なペット にも見えますね。
助けてくれた男に喜んでもらおうと一生懸命に男の頼み事をこなしていく。そんな律儀で真っ直ぐな姿にかわいさを覚えるのかもしれない。
雀の女の子は献身的に男に尽くしてくれますが、それは、主人公の男が理想とする女性像なのかもしれませんね。
雀の女の子は男の妄想だったのか?
なあ、雀――警察におまえのことを話そうと思うんだが、果たして、信じてもらえるだろうか。
最初に読んだ時は、雀の女の子は確かに存在していたと素直に思っていた。が、雀の女は「男が生み出した妄想」であるという感想を読んだ時になるほどと思った。
雀の存在が嘘なのか妄想なのか物語の中には書かれてはいない。しかし、そうかもしれないと感じさせる記述が複数あるので、雀は男の妄想か別人格であったと考えることもできる。(そう考える方が自然かも)
雀の女の子が男の妄想であると思われる点
注意深く読んでみると、、、
- 雀の女の子が人間でいられるのは 一週間 であり、それと同じ期間に男は 一週間の有給休暇 を取っていた。
- 雀は月曜の朝に亡くなる。月曜の朝は男の有給休暇の終わりでもある。
- 雀の女とは普通に会話ができる。(美和と話すときは、おどおどしている)
- 了解という意思表示の際に 右手の親指を立てる という動作をするが、この動作が男と雀で同じ。
- (雀 --> 男の頼み事を引き受けた際に右手の親指を立てる動作をしている)
- (男 --> 美和と出会った夜に右手の親指を立てる動作をしている)
男と雀の行動を確認してみると、男と雀が同一人物であったとしてもおかしくない
また、例外もありますが、男が酒を飲んだ後に雀が出現していることに気付きました。(たまたまかな?)
以下、男と雀の時間と行動
月曜日
日中―――――――――
太陽の光が差し込むレストランで
美和とレストランで食事。食事中はワインを2杯飲んだ。食後に美和と別れ、その直後に雀を助ける。
かなり遅い時間まで、彼女の好きそうな店を見て回ったが、
その後は、美和の誕生日プレゼント(来月)を見て回ったりしていた。
帰宅後――――――――
風呂から上がり、ビール片手にテレビをつけると、
テレビで「お見合いパーティーを扱った番組」を見る
23時過ぎ―――――――
男の部屋に昼間の雀が訪ねてくる。男は美和が欲しがっている物を調べるよう依頼する。
火曜日
19時―――――――――
この時間、雀は美和のマンションのベランダにいた。
この時間、男が何をしていたのか書かれていない。どこかに外出していた??
23時過ぎ―――――――
汗まみれの体をシャワーで流し、録画していたナイターを見ようと…
どこかに外出していた??
シャワーを浴び、夕食の弁当を食べ始める時間が 23時過ぎ 。食事の際は焼酎を飲んだようだ。また、今夜は雀は来なかった。
水曜日
時間不明――――――――
風邪でも引いてしまったのだろうか。外にいるときはどうということはなかったが、
どこかに外出していたらしい。
21時前―――――――――
アパートで日本酒を一杯飲んだ。すると、雀が美和についての報告にやってくる。雀が帰ったあと、弁当と日本酒で夕食。
木曜日
日中――――――――――
雀は一日中ぴったりと美和に張り付いていた。
日中寝ていれば体調も回復するのだろうが、やらねばならないことが山積みで、休むどころかいつもの倍、からだを酷使しなければならなかった。
時間帯が不明だが、男はどこかに外出していた???
夕方~夜と推定―――――
カップうどんをビールでむりやり胃に流し込み、
食後に雀が調査報告やってきた。雀が「こんばんは」と挨拶したので夕方から夜の時間帯だと思われる。
金曜日
20:20―――――――――
美和と鈴木が、美和のマンションに入っていく。
その様子を雀がデジカメで隠し撮りした。
(この時間の男の行動は不明)
23時過ぎ―――――――
雀が調査報告にやってきた。
- 調査によると、鈴木には競馬で作った借金が300万円あり、それを返済したら妻とは別れると美和に話している。
- 男が美和に渡している金は鈴木に渡っているのか?
- そもそも、鈴木に借金があるのは本当なのか?
- 本当に妻と別れる気があるのだろうか?
(雀)「じゃあ、お別れですね」
アパートの部屋にて、雀と日本酒を飲む。
土曜日
朝?午前中?――――――
美和のマンションを訪ねて問いただす。
日曜日 (おそらく土曜日から日曜日に切り替わった直後であろう)
午前零時過ぎ――――――
日曜日
時刻は午前零時過ぎ。もう日付がかわっているではないか。
これって、日付が変わって日曜日になったってこと??それとも日曜日から日付が変わって月曜日になったってこと??混乱しましたが、、、
(雀)「昨日(金曜日の夜)でお別れしておいた方がよかった」
という雀のセリフから、おそらく 土曜日の夜 ってことでしょう。
アパートで焼酎のお湯割りを飲んでいると、昨日で別れたはずの雀がレコーダーを持って訪ねてくる。レコーダーの音声には、男が美和のマンションを出た直後に交わされた(と思われる)美和と鈴木の会話が記録されていた。
ようやく騙されていることに目が覚めた男は、ダイヤモンドの指輪を取り返してくるよう雀に依頼する。
月曜日
朝―――――――――――
とにかく寝させてくれ、と懇願するからだに鞭打って布団から起き出し、
寝不足??疲れ??
テレビを点けると、美和と鈴木が自動車事故で死亡したとのニュース
雀が指輪を届けに来たが、そのまま死んでしまう。
一週間後――――――――
警察に重要参考人としてよばれる。
最後はやっぱり悲しい―――
調査が終わったので 「じゃあ、お別れですね」 と目を潤ませる姿がなんとも寂しくなる。また、男の為にダイヤモンドの指輪を取り返してきて、そのまま死んでしまうという最後にも泣けてきます。
疑問に感じたこと
男はなぜ一週間の有給休暇を取得したのか?
普通に考えれば、美和の身辺調査をする為ということですよね。しかし、そうだとすると、有給休暇を申請する時点で男は美和に騙されているかもしれないという疑った気持ちを持っていたということになりますよね。
しかし、そんなはずはないですよねえ。だって、あれだけ美和のことを信じて疑わなかったんだから。。。疑問です。。。
あるいは、美和が信頼できる人物なのかどうか一応調査してみる事にしたのでしょうか?しかし、そうであるならば、100万円相当のダイヤモンドの指輪は調査後に渡す方が賢明かと思うのですが。。。
それとも、見合いパーティーや婚約も全て男の妄想であり、美和を一方的に追いかけるストーカーだったのでしょうか?とはいえ、何の為に一週間の有給休暇を取得したのでしょうか?
タイヤに細工をしたのは、男??
急カーブでタイヤが破裂するように細工がされていたらしい。
なぜ他人事のような言い方なのでしょうか?今はまだ罪を認めたくないだけ?それとも、自分でやったのに覚えてない?
タイヤに細工をしたのは雀の女の子?
雀は、頼まれもしないのにタイヤの細工をするとは思えませんよね。男が指示したとも思えないし...
それとも、例えばダイヤの指輪は美和の指に嵌められていたとする。すると、指輪を奪い返す事が難しかったので、事故を起こさせて指輪を奪った??しかし、雀がそこまでやるだろうか??また、自動車に関する知識はあったのか?
とすると、タイヤに細工をした事については、やっぱり男の仕業ってことになるのか...(男は自動車整備工場に勤めているし、高校卒業後は自動車の専門学校にも通っていた)
ダイヤモンドの指輪はどこにあり、誰がどうやって取り返したのか?
指輪が部屋にあるのか美和の指に嵌められているのかは、男も雀も知らないはずだ。では、どうやって指輪を取り戻したのか?
室内に保管してあった?
男は雀にダイヤモンドの指輪を取り返して来るように頼む。しかし、雀が室内に侵入することは可能なのだろうか?
雀が男の妄想だとすると、男が部屋に侵入したことになる。だが、ガラス窓を破れば即事件になってしまう。ならば、ドアの鍵を開けたのか?(自動車の知識で鍵を開ける事は可能なのだろうか?)
あるいは、事故を起こした美和の車内から部屋の鍵を奪ったのだろうか?この場合、雀なら可能なのかもしれない。しかし、雀が男の妄想だとすると、誰かに目撃されてしまう恐れがあるのでは?
美和の指に嵌められていた?
まず、好きでもない男から貰った指輪をずっと嵌めているものだろうか?
仮に美和が指に嵌めていたとしたら、指輪を奪う事が可能になるのは、事故直後ってことになりそうだ。雀であれば車を追跡する事も可能かもしれないし、事故直後に人目に触れずに指輪を奪うことも可能かもしれない。
だが、雀は妄想であり実在しないと考えると、指輪は男が奪ったことになる。この場合、車を尾行することは可能でも、高速道路で事故直後の車内から指輪を奪うのは人目に触れる恐れがあるので危険過ぎやしないか?
美和と鈴木の会話の中で、気になったセリフの意味?
雀が録音してきた美和と鈴木の会話の中に、気になった台詞が。
(美和)
「手っ取り早く、さよならドライブにしようかな。二、三杯飲んだだけで、ぼうっとして足元ふらふらさせてるから、簡単よ。」
(鈴木)
「また、ヤルの?」
「さよならドライブ」って、単なる「さよなら」ってこと?それとも、酒に酔わせて運転させ、事故を装って殺害するってこと?
そして「また、ヤルの?」ということは、過去にも同様の手口でお金を搾り取り、最後は殺害したってこと?
想像し過ぎかな???
お見合いパーティーや婚約も男の妄想なのか?
雀の存在が男の妄想ということになると、他にも嘘や妄想が含まれているかもしれない。
例えば、見合いパーティーで知り合ったというのはどうか?
俺の前を九十秒ローテーションで通過していった女たち。そこそこ美人な顔を化粧で作りあげていた女、知性を強調するため政治ネタばかり話していた女、家事が得意だと必死でアピールしていた女…。
上記は男が語っているものだが、そのまま読めばモテる男という印象を受ける。しかし、この男がそうであるとは思えない。これも男の妄想か?
そもそも見合いパーティーに参加したことはなく、たまたま美和の自動車が車検か修理で男の勤める自動車整備工場に持ち込まれ、それをきっかけに美和にストーカーをするようになった...という想像もできる。
すると、ダイヤモンドの指輪は本当は購入していなかった?あるいは、購入したのは事実だが、それは美和と結婚するという妄想から購入したものなのか?
車内から男の毛髪が発見されたこと。
一度、美和と一緒にドライブに行ったことがあるのだから仕方がない。
本当にドライブに行ったことがあるのだろうか??
警察が捜査をすれば、美和と男が見合いパーティーで知り合い、婚約直後だったという事はすぐにわかるはず。そして、そうであれば車内から男の毛髪が発見されても何ら不思議ではない。
それなのに毛髪が証拠になるということは、車内に毛髪があるのはおかしい。つまり、婚約中でもなく交際中でもない、ということなのか?
だが、俺が 美和にストーカー行為をしていた証拠品 として、デジカメやレコーダーも押収されている。
美和と鈴木の密会現場を隠し撮りしたとしても、それは、密会の証拠を押さえる為のものであり、ストーカーとはちょっと違う。にもかかわらず ストーカー行為をしていた証拠 となっているということは、男と美和に面識はなく、男が一方的に ストーカー を行っていたということか?
だとすると、見合いパーティーでの出会いも婚約も全て男の妄想?そして、美和に鈴木という男がいたので、逆恨みで2人とも殺害したってこと?
想像し過ぎか???
おそらく...
男が一週間の有給休暇を取得した理由については説明できない。なぜなら、有給休暇を申請する時点で、有給休暇を取る理由がないからだ。
お見合いパーティーも婚約も事実。
雀は男が作り出した妄想であり、別人格。その別人格である男が会話の録音や密会現場の写真を隠し撮りした。
タイヤの細工については、別人格の雀ではなく、男が自分の意思で行った。
その後、鈴木と出かける美和の車を追跡し狙いどおり事故を起こさせ、直後の車内から指輪を奪い返した。もしくは、指輪が無かったので部屋のカギを奪い、そのカギを使って部屋に侵入して指輪を奪い返した。(車を追跡したことや事故、指輪を回収したことは記憶に残っていないのだろう)
タイヤが細工されていたことから警察は事件と断定し捜査。美和と婚約中である男がストーカー行為もしていた疑いで家宅捜索を行いデジカメなどを押収した。
ってことでしょうか?
でも、何だかスッキリしないしモヤモヤが残るなあ。
雀は男の妄想や別人格かもしれない。しかし、そうは言い切れないところがこの作品のモヤモヤが残るところ。
これについて、どうやら読み手によってどちらでも解釈できるように意図して書かれたようです。
https://www1.e-hon.ne.jp/content/sp_0031_i1_201206.html
湊かなえさんのインタビュー記事より。ページの真ん中程
初めての幻想的な物語なので、ファンタジーにも読み取れるし、古谷の妄想とも読めるように配慮しました。ただ単に良いお話よりもどこか皮肉めいた味付けをしています。