湊かなえ 短編集「サファイア」より「猫目石」を読んで
更新日: 2022-01-10 10:21:49
湊かなえさんの短編集「サファイア」より「猫目石」を読みました。
大槻家
どこの家庭で起きてもおかしくない怖さ
万引き、リストラ、パパ活と、どこの家庭で起きてもおかしくない題材だけに、リアルな怖さを感じました。
父(大槻靖文)について
市役所勤めの中野さんを強請っていたのか?
作品内では、本当に強請っていたのか明らかにならなかった。しかし、
分厚い封筒をパパに差出し、パパはそれをジャケットの内ポケットにサッと入れた。
パパの顔が少し緩んでいるように見える。坂口さんにもらったチーズを食べているときも、あんな顔だった。
上記を読むと、やはり強請りでお金を受け取っていたのだろうと思ってしまいます。
娘のパパ活をどこで知ったのか?
これも作品内では説明されていませんよね。失業中の父は、時間に余裕があるので「たまたま娘の後を尾行した」ということでしょうかね?
坂口さんの内情を、いつ、どうやって知ったのか?
坂口さんって、娘が受験に失敗したのがきっかけで、ダンナと離婚して、ここに越してきたんでしょ。
上記は、娘(大槻果穂)のセリフである。しかし、坂口さんの内情を、いつ、どうやって知ったのでしょうか?
坂口さんの事故死後に警察官が尋ねてきましたが、その時に警察官が坂口さんの内情を話すわけがないし、事故の報道で坂口さんの内情が明かされたとも思えないし…
大槻家の誰か、もしくは全員で、坂口さんについて調べたのでしょうか?
お互いの秘密は秘密でなくなった?
「お、ツナ缶なしでも、サラダ全部いけてるじゃないか」
靖文が新聞を畳んで置き、果穂の皿を見ながら言った。
娘の果穂がツナ缶を必要としなくなったという事は、母が万引きをしなくなったと想像する事ができます。
「いい仕事、みつかるといいね」ビール腹をくすぐりながら、果穂が言った。
上記のセリフから、父の秘密は、もう秘密ではなくなっているという事ですね。
「あたしも部費を持っていかなきゃ。ママ、三千円ちょうだい。お菓子代だって」
「茶道部に入ったのは、それが目的だったのね」
娘も、パパ活を辞めて部活動に励む事にしたと想像する事ができます。同様に「三千円ちょうだい」というセリフは「もうパパ活をしていないのだから、お小遣いを持っていない」と解釈でき、パパ活を辞めたという事は、父が強請りをする事も無くなったと解釈する事ができます。
すると、大槻家は互いの秘密を指摘するなどして、家族間で秘密が明らかになり、万引きもパパ活も強請りも無くなったという事ですね。
それは良かったのですが…。
坂口さんを殺害した?
大槻家を壊そうとした坂口さんへの報復として、大槻家の3人は共謀して坂口さんを殺害することにしたのでしょうか。(ラストでのやり取りを見ていると、3人が共謀しているような雰囲気を感じたので)
母が外に誘導した?
母の真由子が「猫が外に逃げた」という嘘をついて、坂口さんを外に誘導したのでしょうか。
轢かれたのは偶然だったのか?まさか父が?それとも中野さんが?
坂口さんを外に誘導したとして、うまい具合に車に轢かせるなんて事が可能なのでしょうか?
もしかしたら、父の靖文が車を運転して故意に轢いた??あるいは、市役所の中野さんを強請って轢かせたのかな??
――危ない!
上記の母のセリフ(?)ですが、故意に事故を狙ったのであれば「危ない!」とは発言しないような気がします。だとすると、車に轢かれたのは偶然とも考えられますね。そして猫が外に逃げたというのも本当だったのかも?警察官に対し「猫を捜していたんじゃないかと思います」と答えたのは、事故に関わりたくないと思ったから?
ん~~、謎だ。(でも、故意に事故を狙ったとして、それでも思わず「危ない!」という言葉が出てしまったという事も考えられる)
隣人の坂口さん
坂口さんは、娘が受験に失敗し、離婚に至っている事から、幸せそうな大槻家に嫉妬してしまったのでしょう。
坂口さんは何がおかしいのか「うふふ」と含むように笑うと、
父の靖文に告げ口した際の「うふふ」という含み笑いは、大槻家の崩壊を期待してのことだったようですね。
最初の告げ口の時は、母の真由子の万引きを偶然目撃してしまったのかなと思いましたが、その後に父と娘の秘密まで告げ口してきました。親子三人の秘密を偶然見てしまうなんて有り得ないですから、坂口さん自身が大槻家を尾行して調べ上げたのでしょう。
調べ上げた秘密は、父、娘、母と、順番に告げ口をして、その後の大槻家がどうなるかを観察しながら楽しんでいたというわけですね…陰湿です。(といよりも気の毒といった方がいいかも)
しかし、ひき逃げにあい、亡くなってしまった…。
他人の家庭を壊そうとしたのだから自業自得かもしれません。しかし、自身の不幸がきっかけになってそのような行動に至ってしまったのであれば、可愛そうな人とも言えますね…。
ラストシーン
ラストシーンで大槻家の雰囲気がガラリと変わります。
娘の果穂は、猫をあんなに可愛がっていたのに「何か、気味が悪い」とか言い出すし、父の靖文の「大丈夫、見ているだけだ」というセリフも意味深です。そして、母の真由子が猫から覗かれないようにカーテンを閉める態度にも冷たいものを感じます。
最初は、ごく普通の家庭に見えた大槻家。でも父の靖文は強請り(?)をやっていたし、娘はパパ活、母は万引き(無意識で行ったので病気かもしれないけど)。そして、家族3人で坂口さんを殺害した。(間接か直接かはわからないけど、たぶん殺した)
それなのに、平然と日常を取り戻しているし…。
やっぱり、この家庭、普通じゃないですね…。