湊かなえ 短編集「サファイア」より「ガーネット」を読んで
更新日: 2022-01-14 22:17:47
湊かなえさんの短編集「サファイア」より「ガーネット」を読みました。ガーネットは、サファイアの続編です。ショッキングなラストになるのかと思いきや…
ん?と思った点
手紙を送ってきたファンの記憶
この人物は、10年前に修一から指輪を買った女性であるが、その時に修一が持っていたカバンを今でも憶えていた点に不自然さを感じました。
また、修一との会話内容を事細かに憶えているの事も不自然に思いました。「真美の好きなところを語る修一」のエピソードなど手紙の内容も出来過ぎているような…。
麻生雪美との出会い
「墓標」の主演女優に決まった麻生雪美が、かつてタナカから勧誘を受けた女性だったこと。そんな偶然ってある?
ポストカード
麻生雪美が持ってきたポストカードの山の風景と筆跡を見て、送り主がタナカであると真美が気づいた点。真美自身もそのようなカード(山の写真)をタナカから受け取った事があるとはいえ…。
サファイア後の真美
真美は修一を失った悲しさと、彼を殺したかもしれない女への憎しみの中で生きていた。(彼を殺したかもしれない女というより、彼を失った辛さをぶつける対象を求めていたのかもしれない)
デビュー小説「墓標」
同僚の女から嫌がらせを受けていた真美は、その女への怒りや憎しみの感情を小説にして書いた。墓標の読者レビューから想像すると、復讐劇を描いたこの小説は、読後に気分が悪くなるほどハードな内容だったのでしょう。
しかし一方で、妬みや憎しみという感情の醜さに気付かされた読者もいた。
夢に現れる修一
真美が前向きな気持ちでいる時に現れ、そうではない時には現れない。そうではない時とは、妬みや憎しみの感情に陥った時。
夢に現れる修一は、自分自身の心の状態を映す鏡のようなものだと思った。
真美の心の変化
麻生雪美との対談や読者からの手紙によって、真美の心に変化が生まれたようですね。
麻生雪美はわたしが思い描いていた指輪を買った女たちとはまるで違う。妬みなどどこにもない。努力しないで世の中を恨んでいるわけでもない。
麻生雪美のような前向きに生きる姿に憧れのようなものを感じたのかも。
心の中に留まる言葉に、ようやく出会うことができた――。
小説の読者の中には、己の中にある妬みや憎しみといった感情の醜さに気が付き、そこから抜け出せた人も現れた。
理由はどうであれ、妬みや憎しみに支配されてしまうのは醜いということ。もしも、修一を殺した女がいるとすれば、その女と同じではないか。真美の心はそのように変化していったのだと思いました。
真美は、自身が変わることによって、修一の死を無駄にせず、修一自身もそれで救われるという結論に至ったのでしょう。
――消えていった。
多分、もう、夢の中で彼に会うことはないだろう。
「もう会うことはないだろう」という言葉が寂しいけど、修一が消えていったのは、真美の中で一区切りがつき、それだけ成長したという事なのだろう。
ガーネットという作品から得られたこと
事実は一つでも、それをどう捉えるかは各個人の解釈次第であり、解釈次第で良くも悪くもなるという事が「ガーネット」のテーマになっているのだと思いました。
例えば、指輪で騙されたものの、それをバネにして女優になった麻生雪美がそうだし、小説家で成功した真美も、修一を失った事がきっかけになっています。
墓標という小説は誰が読んでも同じ内容ですが、読む人よって気分が悪くなる人もいれば、妬みや嫉妬に支配された人間の醜さに気付かされた読者もいました。
つまり、事実は変えられなくても解釈は変えることができるということです。
そして、どう解釈するかは自分次第なのです――。