名無しさん

山本周五郎「無頼は討たず」を読んで

公開日: 2022-03-24 06:25:20 (1620文字)
読書感想 山本周五郎 小説

山本周五郎 無頼は討たず

https://www.aozora.gr.jp/cards/001869/card57725.html
青空文庫で無料で読めます。(11,625文字)

ヤクザの親分である庄兵衛が縄張り争いで殺されてしまった。殺したのは猪之助という男で、庄兵衛の元弟分である。殺された庄兵衛の子分らは仇討ちをする構えを見せるが、庄兵衛の息子である半太郎は仇討ちをせずに静観すると宣言する。ところが後になって、半太郎は猪之助を斬ってしまう。その理由は、猪之助が謝罪の言葉を口にしたからであった。

目次

感想

半太郎

父を殺されても感情的にならないところも凄いが、謝罪してきた猪之助を即斬ってしまうのも、また凄い。

感情ではなく理性的に物事を判断し、なかなか立派な人物だと思った。なんというか、筋を通すというか、白黒ハッキリしているというか、自分のルールがあるというか、ある意味、半太郎が一番ヤクザっぽいかも?半太郎が父親を継いでいたら大物親分になったと思う。

猪之助

最初は暴れん坊というイメージだったが、最後はいい人なんだな、と思った。

詫びを入れてきた猪之助に斬り掛った気持ちがわからない

「人を殺しても悪かったと一度も思わぬような奴は、やくざの気風かも知れぬが、人間じゃあない犬畜生だ、犬畜生を親の敵と狙う私じゃあありません――だが、悪い事をしたと後悔して、人らしくなればお父さんの仇、今こそ恨みを晴らさなければなりません、甲府の小父さん――放して下さい」

父親である庄兵衛が猪之助に殺されたと知っても、何もせず静観する姿勢を見せました。ところが、詫びを入れてきた猪之助に斬り掛った半太郎の気持ちが私には理解できませんでした。

普通であれば、父親が殺されたと知った時点で仇討ちをして、詫びを入れて来たら許す、となると思うのですが、半太郎の行動はこれと真逆です。それが当時の時代の価値観なのかなと思いましたが、そうではないですよね。なぜなら、庄兵衛の子分らは最初から仇討ちをしようとしていましたし、詫びを入れた猪之助も、詫びを入れたことでまさか自分が斬られるとは思わなかったはずです。

ということは「犬畜生は斬らず、人間は斬る」というのは、半太郎だけの価値観、考え方ということになりますね。

冷静を保っていた半太郎ですが、本当は父親を殺された憎しみや恨みを持っていたはず。なぜなら、猪之助を匿ってあげた後に泣いて亡き父親に謝ったり、詫びを入れてきた猪之助を斬ったからです。

半太郎には、父の仇討ちをしたいという気持ちを抑え付ける「何か」があったと思うのですが、その「何か」が何なのか私には理解できませんでした。

「何か」のヒントは「無頼」という言葉でしょうか?

無頼という言葉を調べてみると――

  1. 頼みにするところのないこと。また、そのさま。
  2. 一定の職業を持たず、無法なことをすること。また、そのさまやその人。

――と、あります。

2は無法者、ヤクザという悪い意味だと思うのですが、1は、誰にも頼らず自分の価値観で生きるというような良い意味、かっこいい意味に感じました。

2だとすると、半太郎の言葉どおりで「犬畜生は斬らず」ということになり「斬る価値もないから斬らない」とか「犬畜生を斬れば自分も犬畜生と同じになってしまう」などと解釈できます。

そうではなく、1だとすると「自分の価値観で生きる信念のある人は斬らない」となり「そういった人物は別格であり、あえて斬らない」とも解釈できます。

しかし、同じ言葉でも真逆な印象になってしまいますね。

この作品のタイトルである「無頼は討たず」の無頼は1と2のどちらを差すのでしょうか?あるいは別の理由がある?

いずれにしても、半太郎は、自分の中にハッキリとした価値観や考え方を持っている、なかなか立派な人物であると思いました。そして、半太郎がそのような価値観に至ったのは、半太郎の過去に何らかの事件や出来事があって、それがきっかけになったのでは?なんてことを想像しました。


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