山本周五郎「嘘アつかねえ」を読んで
公開日: 2022-03-17 19:37:24 (642文字)
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信吉が度々訪れている「やなぎ屋」という酒飲み屋台に「松さん」という男がやって来るようになった。やがて信吉はその松さんと言葉を交わすようになるが、松さんの話題はいつも「女は殴りつけて蹴とばすに限る」という方向に向かうのだった――。
感想
松さん
奥さんから怒鳴られて弱々しい松さんだが、酒が入ると大口を叩くところが哀しい。救いは、父親想いの子供がいることだろうか。
毎回毎回会う度に大口を叩いたり愚痴る人がいたら嫌になるかもしれないし、こんな人にはなりたくないと思うかもしれない。
もしも、自分が松さんの立場だったら、自分の収入に合わせて家族計画を考えるし、憂さ晴らしの酒も止めますね。それに、奥さんの態度も一種のハラスメントだと思うので、関係を改善できないのであれば離婚も有りだと思う。
信吉
信吉は娼婦に金を渡したり、松さんに同情するなど優しい男なのだろう。
信吉が錆びれた横丁や錆びれた屋台を気に入っているのは、そこに自分と同じような庶民の生活があり、安心感や居心地の良さを感じたからではないか、と想像した。そして、屋台の主人と同じように信吉自身もあまり会話は好まないタイプなのだろう。
「――おまえの云うとおりだよ、松さん、いいから酔おう、……酒だけはおれたちを騙さねえからな」
最後の信吉の言葉だが、傷を舐め合っているようで好きにはなれなかった。