山本周五郎「追いついた夢」を読んで
更新日: 2022-03-25 18:31:30
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青空文庫で無料で読めます。(20,758文字)
不正をしながら財産を貯めることだけに生きてきた和助。それは、仕事を引退した後に、遊びながら楽しい余生を過ごす為だった。そしてついにその時がやってきたのだが…。
感想
やりたい事を我慢するなどして、人生の最後にあれをやっておけばよかったと思うことはよくある話なんだろうけど、この物語もそれと同じで誰にでも当てはまるテーマであり、深い話だと思った。
読み終えてみて、ふと頭に浮かんだのが、映画「蘇える金狼」だった。「蘇える金狼」も「追いついた夢」も、計画を達成して「人生いよいよここから」ってところで死んでしまった。なので「追いついた夢」は、江戸時代版「蘇える金狼」かも、って思った。
でも、映画「蘇える金狼」で松田優作が演じた朝倉哲也は、自分のやりたい事をやっていたと思うので、本人からしてみれば充実した人生を送っていたかもしれない。それに比べると、この物語の和助はまさに「無念」なのでしょうね。「蘇える金狼」が動的な野望に対し「追いついた夢」は静的な野望ってイメージ。
おいしいところを最後まで取っておくという和助の生き方は、私と似ているかもと思った。なので、和助が浜辺で倒れたシーンにズシンと響くものを感じた。
せっかく貯めた財産と若い娘が目の前にあるのに、人生最後の2年間は寝たきりという…。自分の人生や生き方について「今の生き方でいいのか」と考えさせられる作品です。
おけい
冒頭の「おけい」の描写が、かなりエロティック。
この物語の時代は家族の為に子供が働いたり犠牲になるのは当たり前なのかもしれないけど、病弱の母親を助ける為に自分を売るという選択肢しかないというのは、貧困による悲劇ですね。
最後は巨額の財産を手にしたおけいですが「良かったね」という気持ちにはならなかった。それはたぶん、努力で手に入れた財産ではなく、たまたま運が良かっただけだったからだろう。
和助
「ずっと我慢して、最後にドバっと使う」という和助の生き方・人生設計は極端過ぎている。そして、それが和助の人生においての失敗であり、もったいなかったと思う。人間いつ死ぬかわからないし、和助にはお金の余裕があったのだから、生きているうちにもう少し遊んでおくべきでしたね。
いつ死ぬかは誰にもわからない
この物語を読んで感じたのは「明日死ぬとしたら、今日はどう過ごすべきか?」とか「来年死ぬとしたら、今年は何をすべきか?」ってこと。こう考えると、ダラダラと意味のない生活を送るのはもったいないし、遠い将来の為だけに生きるのももったいない。
人生には老後の備えが必要なんだろうけど、同時に今を楽しむこと、今しかできないこともやっておくべきだと思った。
つまり、大事なのはバランス。
勉強ばかり、仕事ばかり、貯金ばかり、子育てばかりではなく、たまには息抜きも必要だし、遊びも必要。