名無しさん

東野圭吾「鳥人計画」を読んで

公開日: 2021-07-08 03:36:57 (2727文字)
更新日: 2021-07-19 08:27:35
読書感想 東野圭吾 小説
「鳥人」として名を馳せ、日本ジャンプ界を担うエース・楡井が毒殺された。捜査が難航する中、警察に届いた一通の手紙。それは楡井のコーチ・峰岸が犯人であることを告げる「密告状」だった。警察に逮捕された峰岸は、留置場の中で推理する。「計画は完璧だった。警察は完全に欺いたつもりだったのに。俺を密告したのは誰なんだ?」警察の捜査と峰岸の推理が進むうちに、恐るべき「計画」の存在が浮かび上がる…。精緻極まる伏線、二転三転する物語。犯人が「密告者=探偵」を推理する、東野ミステリの傑作。
あらすじ より引用

スキージャンプへの興味が皆無なので読んでみたいとは思わなかったが、東野圭吾さんの作品なので読んでみる事にした。さて、鳥人計画とは何か??「美しき凶器」のように、飛びぬけた運動能力のある選手を作り上げる計画なのか?そして、その計画に絡んで殺人事件が起こる?

まず、あらすじの中で、犯人、被害者、死因、は既に明らかにされている。物語の読みどころは、犯行の動機、殺害手順、密告者は誰か、鳥人計画とは何か、である。さらに予想を裏切る展開も複数ある。(もちろんいい意味で)。これらの解明は終盤でテンポよく明かされていくのだが、反面、そこに至るまでは読んでいて長く感じた。長く感じたのは、読めない日々が続き、登場人物や会社名など誰が誰だか忘れてしまって事が要因かもしれない。ちなみに読了までに80日も掛かってしまった。

犯行動機について
選手としての自身の夢を諦め、今度は指導者として楡井に夢を託した犯人の峰岸だが、楡井がライバルチームに協力するという裏切りと、ライバルチームが開発したジャンプの矯正マシンへの嫉妬が殺害の引き金になるのだが、果たして、それだけで殺害まで至るのかな?と思ってしまった。

矯正マシンについて
ジャンプ動作のフォームを矯正する際、お手本の動作と違った動きをすると、不快な音を出して自然に矯正させていくという仕組み。そのマシンの開発中で実験体となった3人の選手のうち、一人が(実験ではない時に)タラップから転落死してしまう事故が発生するのだが、それと矯正マシンとの間にどれだけの関係性があるのか疑問に思った。(と、思ったが、後で判明したのは、持っていたトランシーバーの雑音に体が無意識に反応した結果の事故という可能性であった)。開発者の杉江泰介は、息子であり選手の翔にドーピングを使用しているとほのめかしていたが、マシン自体は非難されるような悪いものではないような気がする。

と、思ったが、どうやらマシンには大きな副作用があって、それは不快な音の影響のためか、普段の生活においてちょっとした雑音に体が無意識に反応してしまう事があるらしい。また、不快な音は精神的にも人を変えてしまうような影響があるらしい。(笑顔がなくなるとか)

では、不快な音の度合を下げるとか、単なる警報音程度に変更したら、どうなのか?科学的だし、割と良いマシンかも??

鳥人計画というタイトルについて
いったいどんな計画なのだろうかと期待して読んだが、読んでみると、ああ、これが鳥人計画か。と期待が外れた感があった。

峰岸に自首を勧める紙を送ったのは、片岡だった。
峰岸への密告は杉江泰介の部下?である片岡によるものだったが、へえという感じで驚きはない。

警察への密告者は、楡井の恋人(を演じていた)杉江夕子(杉江泰介の娘)
警察への密告だけではなく、自ら毒を舐めた楡井に水を飲ませる際、とっさに毒を飲ませた。つまり直接の死の原因は夕子にあった。理由は、父親である杉江泰介の狂気に満ちたマシン開発を中止し、弟の翔を救いたかったから。

佐久間刑事は事件の真相に気付いているらしい
佐久間刑事によると、「楡井の薬袋の残り個数から計算すると、昼食後に(無毒の)ビタミン剤を飲んだことは間違いない」という。にもかかわらず毒によって死んだ。そして死亡時間から推定すると、毒を飲んだのは昼食後の可能性があるとも。そして夕子が密かに飲ませたのではないかと疑っているようだ。しかし、証拠がないので自白に頼るしかないだろう。もやもやが残る。。。

峰岸の罪はどうなるのか?
峰岸の犯行計画は楡井にバレており(ジムに隠してあった毒薬を偶然発見し、自身の命が狙われている事を知った為、毒薬を飲まなかった)、実は成功していなかった。佐久間刑事も楡井が自分で毒を飲む事はないだろうと考えている。てことは殺人未遂に切り替わるのか?

楡井はなぜ毒を舐めたのか?
楡井が、コーチの峰岸を裏切ってしまった事を悪く思うのは理解できる。とはいえ、毒と知ってて薬を舐めたりするのだろうか?なんか違和感。舐めるより、素直に謝った方が納得がいくのだが。。。

夕子は自首したのか?
沢村は「夕子が一人暮らしから実家へ帰って来る」と発言しているが、つまり、自首はしていないという事か??また、仮に自首したとしても、物的な証拠はなく、本人の自白だけで罪に問えるのか??自首せずにそのまま生きていくのかと思うと、読み終わってもモヤモヤが残る。

杉江泰介がジャンプ界から去るのは自首と関係があるのか?
杉江泰介が、そう簡単にジャンプ界を辞めるはずはない。娘である夕子が自首しない代わりに、自身はジャンプ界から去るということにしたのか??

別の結末を考えてみた。
開発者の杉江泰介は、楡井のコピーを作る為に、楡井の細かい動きをマシンに取り込んだわけだが、取り込んだ後は用はないので、その事実を指導者である峰岸に密告し、峰岸に楡井を殺害させる。そして息子である翔をナンバーワンにさせる。そこまでを含めて「鳥人計画」にするという展開の方が物語として面白いのでは?と思った。

もしも私が峰岸の立場ならこう考えるべきだと思う。
自身が果たせなかった選手としての夢を楡井に託すのは良いが、その気持ちが大きすぎるのではないか?楡井に対して気持ちがのめり込み過ぎたのではないか?夢を託しても、自分は自分、楡井は楡井と線を引いておけば、殺害しようとまでは考えなかったのではないか?子育てや恋人に対しても同じ。

マシンの存在が自身の努力を無駄にしてしまうという嫉妬のような気持ちが生まれてしまったのは感情なので仕方がないとしよう。しかし、時代が変われば、あらゆるやり方や考え方が変わるので、それを受け入れるしかないと思う。当時は当時のやり方で一生懸命取り組んだのだから、もう悔いはない。という風に考えるべき。

そして物語のエンディングは爽快感で締め括る
ジャンプをする沢村と佐久間刑事が会話するところで物語は終える。爽快感があり一本の映画を映画館で見終えた気分になった。画面がブラックアウトして字幕がゆっくりと流れてくる感覚になった。

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