カズオ・イシグロ「日の名残り」(四日目 午後)を読んで
カーライル医師との会話
カーライル医師から「もしかしたら、あなたはどこかのお屋敷の召使いということはありませんか?」と言われるスティーブンス。
これって、逆に捉えると、あなたは公爵や伯爵には見えないという事なので少々失礼な発言かもしれない。スティーブンスはプライドも高そうだし内心カチンとしなかったのだろうか?
カーライル医師は「ここの村人だったら、(スティーブンスを)公爵か伯爵くらいには思って当然だ」という発言も村人に対して小バカにしているというか上から目線だし。
カーライル医師もプライドが高く、村人を上から目線で見ている人物なのかな?
「悪い連中じゃないんですよ。私なんかは、もう、一生ここに埋もれてもいいつもりでいますけどね」という発言も、この村で暮らすと村人よりも優れた自分に優越感を感じられるということなのだろう。
この村にやって来たときは「熱心な社会主義者だったんですよ」という過去形なのも、こんな村人たちと平等な扱いを受けるのは御免だ、という気持ちから変わったのかもしれません。
そして、品格の話になり、スティーブンスが品格とは「公衆の面前で衣服を脱ぎ捨てないないこと」というジョークも伝わらす、何だか気まずい雰囲気って感じに(苦笑い)
そんな感じでドライブ中の素晴らしい風景に集中することができなかったスティーブンス。
ミス・ケントンとのやり取りを思い出すスティーブンス
結婚を申し込まれているとスティーブンスに話すミス・ケントン。スティーブンスは淡々と聞いているが、ミス・ケントンに言わせると、その後のスティーブンスの態度が不機嫌になったとのこと。
ミス・ケントンは結婚するかどうかに迷っている。それは、他に想いを寄せている人がいるからなのか?あるいは、たんに結婚するかということに迷っているのか?
二人を見ていると、本当はお互い引かれ合っているのに、(お互い)本心を出すことができずに話が噛み合っていないようにも感じる。
あるいは、ミス・ケントンはスティーブンスに対する恋愛感情はなくて、感情を表に出さないスティーブンスという人柄をミス・ケントンが快く思っていないだけなのだろうか?
二人のやり取りのあと、客人のカーディナルに「気分でも悪いのかい」と指摘されてしまうスティーブンス。冷静を保っているつもりのようだが、ミス・ケントンの結婚の件で激しく動揺しているのだろう。そして、その様子は、ミス・ケントンもおそらく気づいているはず。
ミス・ケントンは、そんなスティーブンスの性格にイラッとしてしまうのだろうか?本当は、スティーブンスから結婚を反対してもらいたいのだろうか?
スティーブンスが裏廊下を歩く途中、ミス・ケントンの部屋の前を通りかかると、部屋の中でミス・ケントンが泣いていると悟る。本当に泣いているかはわからないが、おそらく泣いていたのだろう。ミス・ケントンは本当は結婚したくないのだろうか?本当はスティーブンスに連れ戻されたいと思ってる?
スティーブンスは、(ミス・ケントンは)本当は結婚したくないということを薄々感じていて、だからミス・ケントンが泣いていると感じただけなのだろうか?
スティーブンスは、この日の夜について「勝利感と高揚」「みずからの地位にふさわしい品格を保ち続けた」と語っている。これは、ミス・ケントンとのやり取りで動揺してしまったものの、執事としての仕事を完璧にやり遂げることができたということだと思うが、やっぱりスティーブンスは仕事人間なんだなと思う。
仕事人間というか、執事という生き方しかできないのでしょうね。
四日目 午後 おわり。