カズオ・イシグロ「日の名残り」(プロローグ)を読んで
更新日: 2021-11-22 20:14:09
アマゾンのジェフ・ベゾスさんは、アマゾンを開業するかどうかを悩んでいる時、この作品を読んで開業を決断したそうだ。そして、このエピソードを聞いたことがきっかけで、何年くらい前だか一度読んだことがあります。
その時の感想としては、ジェフ・ベゾスさんの言う通り、この作品を読むと、物語の主人公であるスティーブンスのような「後悔」をしたくないという気持ちになるのはわかるのですが、とくに大きな事件が起きるわけでもなく、物語の大半の話が長くて単調に感じ、面白さを感じ取ることができなかったのです。
しかし、この作品は、「英国最高峰の文学賞、ブッカー賞受賞作」だそうで、作品の面白さを感じ取れない自分に何か足りないものがあるのではと思い、もう一度じっくりと読んでみることにしました。
作品のストーリーもわかっているし、第三者が作品を解説する動画も見た事があるという前提ではありますが、気づきなどを書き残してみようと思います。
プロローグ ~読みながら感じたこと~
スティーブンスは、なぜ旅行に乗り気ではなかったのか?
- 仕事人間で、旅行には興味がないから?
- 自分が今居る場所がイギリスの最も重き場所であるという意識があることから、旅行なんてものは庶民がやるべきものだというような、少し見下した感覚を持っているから?
- 本当は行きたいけど、ミス・ケントンに会いたいという気持ちを隠したいから、乗り気ではないというフリをしている?
旅行に行くと決めたことについて。
- 現在の主人であるファラディから旅行に行ってはどうだと提案されたこと。
- その同時期にミス・ケントンからの手紙があり、その手紙の文面から彼女が「職場に復帰したい」という気持ちを感じたということ。
- 人手不足からここ最近ミスが多くなったこと。
上記のことから、「ミス・ケントンに職場に復帰する意思があるかどうか」を直接確かめに行くという「正当な理由」でミス・ケントンに会いにいくことができて、内心はうまい展開になったと思っているのではないか。
そのほかに―――
- 手紙で確認する事もできたはず。(当時はまだ電話はない?)
- ミス・ケントンからの手紙を読んで、「職場に復帰したい」という気持ちを感じたというより、そう願いたかっただけなのかもしれない。
- ミス・ケントンに直接会って「復帰する気があるのかどうか」を確かめるというよりは、個人的な感情で直接会いたいというのが本音?
―――ということを感じた。
スティーブンスについて
- 数日の旅行なのに、着ていく服に悩むという事は、今までに旅行をしたことがなかったのだろうか。しかも、スーツしかもってないということは、普段遊びに出掛けることもなかったということか。
- 旅行の際に何かあった場合、服装が粗末だと屋敷の評判が悪くなるかもしれないと考えるほど真面目な男。
- スティーブンスは、無駄使いをするような人物だとは思えない。しかし、旅行費用と洋服を新調するだけで貯えがギリギリということは、今までずっと安い給料だったのだろうか。しかも、住み込みで働いているのだから、家賃負担もないはずなのに。
- ミス・ケントンが結婚の為に屋敷を去ってから20年も経っている。その間、スティーブンスはずっと想い続けているということか。あまりというか、ほとんど外出もしていない様子だし、スティーブンスという人物は、どこかの時点からずっと時が止まったままという人物なのかもしれない。だから、昔話、過去のエピソードが多いのであろうと想像した。(過去の武勇伝とかを語るのが好きな人もいるが、それと似た感じ?)
- 過去において、屋敷には著名な人物が度々出入りしており、その人物に仕える使用人の話などを語る姿を見ると、どこか、一般庶民を上から目線で見ているような、あるいは、「自分は一般庶民とは違うのだ」という気持ちを持っているかもしれない。
- 結婚している事を知っているのに、ミセスとは呼ばず、「ミス・ケントン」と呼ぶということは、スティーブンの中には恋愛感情があり、今でも「一人の異性」として見ているということを表しているのだろうか。
- 新しい主人であるファラディに旅行の許可をもらう際に、その話を反故にされたくないと計算するスティーブンス。どうやら、旅行に行く気満々のようだ。
プロローグ ~読み終えた感想、まとめ~
スティーブンスの話は長くて、何かの言い訳を聞かされている気分になる。
給料が安い?というものあってか、屋敷の外に出ることもなく、仕事以外の時間では読書などをして過ごしてきたのだろう。そのため、どこかの時点からずっと時が止まったままであり、現代人との価値観というか、感覚が多少ズレている面があるかもしれない。しかし、昔ながらの執事としてのスタイルを守り抜き、一流の執事ではあるのだろう。(洒落は苦手のようだが)。悪く言えば、仕事だけに生きてきて、プライベートを疎かにしてしまったともいえる。(それでも、いつか死ぬ時に、本人が「執事という人生を送れて本当に幸せで良かった」と思えるのであれば何ら問題はないとは思うが)
スティーブンスは、旅行への興味はなかった。しかし、ミス・ケントンから手紙が来たことで、「彼女が再び職場に戻る気があるのかどうか」を確かめるという「正当な理由」で、彼女に会う(会いたい)事ができる。しめしめ、といったところでしょうか。
~プロローグ~ ここで終わり。
続きは、 一日目 夜
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