名無しさん

カズオ・イシグロ「日の名残り」(三日目 夜)を読んで

公開日: 2021-08-04 19:37:58 (3773文字)
更新日: 2021-08-04 19:37:25
読書感想 日の名残り 小説 カズオ・イシグロ
スティーブンスが物語の中でダーリントン卿の事を語るのは、それだけ彼の事を尊敬しているからなのか?それとも、仕える人物によって執事の格も上がるという発言の通りだとすると、スティーブンス自身の格の高さを語っているのか?

過去においてユダヤ人召使いに対して人種的な差別があったことは一切ないというが、、、
ある日、ダーリントン卿が、ユダヤ人であることを理由にユダヤ人召し使いを解雇するようスティーブンスに命じる。スティーブンスは反対のようだが、その意思は表に出さずダーリントン卿の命令に従うことにした。(これは、主人に対し意見をするのはご法度だったのだろう)

スティーブンスは、ユダヤ人召使いに解雇を告げる前に、ミス・ケントンに事情を話すが、ミス・ケントンは「そのようなことをする屋敷ではもう働きたくない」とスティーブンスに告げる。結局ユダヤ人召し使いは解雇されたが、ミス・ケントンが辞めることはなかった。辞めても行く宛がなく辞めるのが怖かったのだと。

それから一年ほどすると、ダーリントン卿の考えが変わり、あの解雇は間違っていたとスティーブンスに話す。何とか償いをしたいと連絡はとれないものかと言うのだ。

その事をスティーブンスがミス・ケントンに話すと、なぜあのとき「本当は自分も解雇に反対している」といってくれなかったのかと沈みこんでしまう。言ってくれれば、一人で苦しまなくてもよかったのにと。

スティーブンスから解雇の件を聞かされたとき、ミス・ケントンから見るとスティーブンスは楽しそうにさえ見えたそうだ。ミス・ケントンがこんな屋敷なら辞めてしまいたいと言ったのは、ダーリントン卿の判断だけではなく、そんなスティーブンスの態度も影響したのだろう。

ミス・ケントンの人柄
ミス・ケントンが、スティーブンスからユダヤ人召使いを解雇すると告げられた際、反対であるとスティーブンスに伝えた。また、こんな屋敷ではもう働きたくないとも。そういう態度をスティーブンスと比べると、人間味があるというか、感情を表に出すタイプである。(ただし、ダーリントン卿に対しては、立場上、自身の意見を述べることはなかっただろうと想像する)。

スティーブンスがミス・ケントンに対し、ユダヤ人召使いを解雇する事になったと告げる際、自身の考えを伏せたのはなぜか?
スティーブンスが、ユダヤ人召使いの解雇についてミス・ケントンに告げた際には自分の感情を出さずに事務的に話した。(ミス・ケントンから言わせると、それは楽しそうに見えたそうだ)。

スティーブンスは、ダーリントン卿に高い忠誠心を持っており、例え、ミス・ケントンにさえも、主人の意向に背くような発言はしなかったということか?
あるいは、感情を出すことなく冷静に対処するというスティーブンスの理想とする執事像を貫いたということなのか?あるいは、その両方?

ミス・ケントンは、スティーブンスよりも人を見る目がある
女中に応募してきたライザという娘を、スティーブンスとミス・ケントンが面接をした。スティーブンスは、この屋敷に相応しい人物ではないとして採用に反対したが、「この娘には可能性があるから自分に監督させてほしい」というミス・ケントンの意見に押されて採用することになった。そして、ミス・ケントンは、そのとおりに数週間後にはライザを見事な女中に進歩させたのだ。

ミス・ケントンは人を見る目があるようだ。スティーブンスのお父さんの件もそうだったし。とすると、ユダヤ人召使いの解雇の際にスティーブンスが楽しそうにさえ見えたというのはどうなのだろう?スティーブンスは、本当はユダヤ人召使いの解雇に賛成だったのか??(そうは感じないが)

ミス・ケントンから、「あなたは見た目の良い娘を召し使いにしたがらないわね」と言われてしまうスティーブンス。ミス・ケントンが言うのだからおそらくそうなのだろう。でもなぜか?ミス・ケントンが言うように、可愛い娘がいると気が散るから?スティーブンスは、美人が苦手なのか??そして、また二人のやり取りには笑ってしまった。本当は仲が良いのかも?と思ってしまう。

スティーブンスは、恋愛小説を読んでいる。
プライベートな時間に、恋愛小説を読んでいるところをミス・ケントンに見つかってしまったスティーブンス。独身男が恋愛小説とは、なんだか少し寂しいなと感じた。本人から言わせると、恋愛小説を読む理由は、良い英語を学ぶためだというが、それは本当なのか?(何を読んでいるのか見せてと迫るミス・ケントンに対し、知られまいと必死に隠そうとしてた)

ミス・ケントンに男の影?そして、動揺するスティーブンス
ミス・ケントンは、契約上許されている休暇をきちんと取るようになった。どうやら休暇の日には屋敷の外で昔の同僚と会っているようだ。しかも、その元同僚は男性であり、手紙も週一くらいのペースで送ってくる。

スティーブンスが、そのことをミスター・グレアムに話すと、「ミス・ケントンは、結婚を考えているのかもしれない」と指摘。スティーブンスは、動揺したようだ。

スティーブンスとミス・ケントンの仕事観の相違?
仕事の終わりにココアを飲みながら行う、スティーブンスとミス・ケントンの二人会議でのこと。スティーブンスは、今の仕事について、ダーリントン卿の仕事が終わるまで私の仕事も終わらないと話す。スティーブンスによると、それを聞いたミス・ケントンは、混乱、あるいは、気に入らなかったのかも知れないと語る。

ミス・ケントンは、もしかして、スティーブンスに気があった??しかし、スティーブンスは感情を出さない仕事人間なので、恋愛関係に発展することは難しいと考えたのかもしれない。そして、この発言に「やっぱり、この人との恋愛は無理そうだ」と、がっかりした気持ちになったのかもしれない。

ふてくされてしまったスティーブンス?
それからある日のココア会議でのこと。疲れた様子のミス・ケントンに対し、そんなに疲れているのならもうココア会議は止めましょうと一方的に決めてしまうスティーブンス。しかし、ミス・ケントンはココア会議の継続を希望しているようだ。

ミス・ケントンが結婚を考えているのかもしれない、ということが気に入らないのか、ふてくされてしまった態度だなと思った。自分でぶち壊してしまった。でも、その気持ちわかる。

過去を思い出し、後悔するスティーブンス
ミス・ケントンとのそういった過去のやり取りを思い出し、あのときああしていたらという後悔を感じているスティーブンス。でも思うのだが、スティーブンスが以前語っていたように、彼が目指す執事という仕事(生き方)と、家庭の両立ってかなり難しいような気がする。なぜなら、スティーブンスが語る執事という仕事は、主人の為に自分の全てを捧げるような行き方だからだ。プライベートな時間はあまりとれないだろうから、家庭を持っても家族から不満を持たれるだけだと思う。スティーブンスのお父さんも、そんな父親だったのかもしれない。

スティーブンスという人
スティーブンスという人は、奥手で感情を出すのが苦手な人のように思う。そして、そんなスティーブンスにとって、執事の仕事は合っているのかも知れない。なぜなら、執事という鎧を着ている間は、自分自身の考えや感情を出さなくて済むからだ。

気まずくなってしまうスティーブンス
ガス欠で困っているところを助けてもらい、おまけに自宅に泊めてくれたテイラー夫妻から夕食をご馳走になっていると、次から次へと村の住人がやって来て歓迎を受けるスティーブンス。村人から立派な車だと誉められたり、紳士だと言われ、どうやら村人はスティーブンスがとても偉い人だと思っているらしい。そして、そう思われて機嫌が良くなったのか、あるいは、村人をがっかりさせてはいけないと思ったのか、否定をしないスティーブンス。だが、だんだんと居心地が悪くなってしまい「今夜はもう疲れたので」と言って、なんとか部屋を後にした。

執事とは「仕事」ではなく「生き方」
部屋に戻ったスティーブンスは、夕食での会話を思い出す。夕食の席で、ミスター・スミスは、「この村では各自が自分で考え、そしてそれをきちんと言葉に出すんですよ」と語っていた。しかし、スティーブンスはその発言に否定的なようだ。

スティーブンスは、自分の考えを表に出さないスタイル。特に政治など自分の専門外のことについては。

「自分が仕えるべき人物は、この人だ!」と思える雇い主を見つけたら、あとは執事として一生懸命奉仕するのみ。雇い主に意見することなどありえないのだと。

この人だと思える雇い主になかなか巡り会えない場合、いつまでも探し続けていては、それだけで人生が終わってしまう。そうなる前に、自分が支えるべき雇い主に巡り会えなければいけないのだと。

もしも、雇い主が世間から非難されるような事や間違いを犯しても、それは雇い主の判断で行ったことであり、執事としてのサービスを精一杯尽くしてきた自分になんら恥じることはないのだと。

執事というのは、やはり「仕事」ではなく「生き方」ですね。

でも、そういった生き方を追求しつつ、恋愛とか家族も手に入れるというのは、なんだか相反するようで難しいような気がします。。。

三日目 夜 おわり。

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