葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」を読んで
https://www.aozora.gr.jp/cards/000031/files/228_21664.html
青空文庫より。5~10分くらいで読めます。[無料]
さらっと読んだ感想
セメントの匂いが蘇る
私も建設現場で働いた事があるのだが、舞い上がるセメントの粉で鼻の穴や髪の毛が灰色に染まるのを思い出した。そして、袋からセメントを出した時のあの乾いた匂いが甦った。
過酷な労働環境?
鼻の穴に入ったセメントを取ることさえできないくらいに忙しい仕事。まるで機械というか、ほんの一瞬でも手を休める事さえ許されない労働環境というか。
江戸川乱歩を連想させるストーリー
セメント樽の中から手紙が出てくるというストーリーに興味を引かれます。そして、江戸川乱歩を連想しました。
グロテスクな手紙
手紙の中身がグロテスクなシーンを想像させて不気味。仮に恋人が事故で亡くなったとして、そのような内容の手紙を仕込むものだろうか??せめてグロテスクな部分はオブラートに包んだ方が返事が返って来る確率も高まるのでは?と思った。
やり切れない気持ち
現代だったら、事故が起きれば労働基準監督署の調査が入るとか、遺族側に損害賠償が支払われるとか、ある程度の救いはあるかもしれないけど、この時代はそういったものがなくて、死んだら死んだでそれでおしまい...みたいな感じだったのでしょうか。悪く言えば、労働者が一人死んでも、部品が一つなくなった程度って感じで心も救いもない...みたいな。そういったやり切れない気持ちも手紙と一緒に込められているのでしょう。
死亡事故が起きたセメントを商品として出荷
セメント工場での死亡事故について、そのような事故があったセメントを商品として出荷するものだろうかと思った。あるいは、それだけ労働者の命は軽い扱いだったのでしょうか?
主人公の男の印象
真面目に働く労働者。生活が厳しいのに 7人も子供を作るというのは計画性のない人物なのだろうか、と思った。あるいは、毎日の労働だけで精一杯であり、生活のことを考える余裕なんかない、という状態なのだろうか。
「へべれけに酔っ払いてえなあ。そうして何もかも打ぶち壊して見てえなあ」と怒鳴った。
手紙を読んだ後のこの台詞について、男がどういう気持ちになったのかわからなかった。(ここが一番重要なポイントなのでしょうけど)。あの男には手紙の内容は伝わらなかった?とも思った。「なーんだ、ただのいたずらの手紙か」くらいにしか思わず、そして、今の生活に対して愚痴ったのが、この台詞だったのかと思った。だって、鼻の穴をちょっと掃除するだけの時間も許されないような労働を日々生きている人が、そんな手紙の中身に構ってられる程余裕があるようには思えないし。
あるいは、自分と同じような過酷な労働環境を強いられ、挙げ句の果てに事故死してしまった若者や社会に対し「どうにもならないやるせない気持ち」になり、あの台詞を吐いたのだろうか。